どうぶつ博士になりたい

どうぶつを眺めたり、生態を知るのが好きだ。
リクガメを飼いたいと常日頃から思っているし、川でよく知らないでかい鳥を見つけると嬉しくなって立ち止まる。
動物園に行ったときは掲示されている解説文をしっかり読み込んでしまうから、園を回りきるのに他の人より随分時間がかかる。

幼いときには、よくどうぶつの番組を見ていた。
今で言うところの「ダーウィンが来た!」
みたいなやつ。
いろんな生き物の生態を教えてくれる、すごい番組だ。
毎週録画しては食い入るように見ていた記憶がある。学びたての知識を夕飯を作ってる母ちゃんに披露すると、「すごいね!どうぶつ博士だね〜」と褒めてくれる。それが嬉しかった。
幼少期の俺は、自分自身がどうぶつ博士だという自覚があったし、強い使命感に燃えていた。自分が得たどうぶつの知識は、速やかに台所の母ちゃんに教えてあげなければならない。どうぶつ博士として、それが俺の役割なのだ!

先日、友人と居酒屋で飲んでいた。
壁にかけてあるテレビではクイズ番組がやっている。友人と話しながらぼんやり視界に入れていたが、お題が「いきもの」に変わると、俺は姿勢を正した。いきものクイズ?俺に?「どうぶつ博士」のこの俺に?よかろう。ニヤリと笑う。友人は呑気にビールを飲んでいる。
最初の問題は恐竜がテーマで、10種類ほどのの恐竜のイラストと、頭文字が表示されている。それぞれの名前を当てるクイズだった。俺はどうぶつ博士だが、当然恐竜博士でもある。しかも頭文字のヒントまでくれている、これで間違える方が難しいってもんだ!次々と声に出して回答する。全問正解。気分が良くなり友人の方を見るが、興味なさげにチキン南蛮を食っている。母ちゃんなら褒めてくれるのにな、と少し寂しくなる。最近会ってないな。たまには顔出そうかな、猫もいるしな。

次の問題は早押し形式だった。やる気満々だ、なんてったって俺はどうぶつ博士なんだから。よっしゃこいよ、なめんじゃねえぞ。
ところがこれがまったく答えられない。
キリンの首の骨の本数が、ゴリラの握力が、あろうことかチーターの最高速度さえ答えられない。
なんてことだ、この程度の情報!絶対に母ちゃんに教えてあげたことがあるはずなのに、どうしても答えが出てこない。こんなにも忘れてしまうものなのか?俺の脳は、飲み会のコールやら頭の下げ方やら、くだらないことを記憶するかわりに、大事な大事などうぶつ情報を手放したっていうのか?
俺は、もしかして、もう、どうぶつ博士では、ないのか…?
あぁ母ちゃんごめんなさい。あなたの息子は、鼻息荒くどうぶつ情報を垂れ流していた息子は、もうどうぶつ博士ではありません…
ショックのせいかアルコールのせいか、視界がグラつく。ふと見ると友人はすり身揚げをかじっている。さっきから何をやってんだよお前は。俺がどうぶつ博士じゃなかったんだぞ?なんとか言えよ馬鹿野郎、カバみたいなツラしやがって!

帰宅してすぐに「ダーウィンが来た!」を録画しようとテレビをつけた。
今からでも勉強しなおさなければ。母ちゃんは今だって俺のことをどうぶつ博士だと思ってる。やっぱりどうぶつ博士じゃありませんでした、なんて、あ、恐竜博士ではあったんですけど、どうぶつの方は違いました、なんて、今更言えるわけがない!
ところが「ダーウィンが来た!」は「ザ!鉄腕!DASH!!」と放送時間が被っていた。
困った。鉄腕DASHは妻も楽しみにしているし、これは外せない。

ということで今日現在、まだなんにもとりかかれておりません。どうぶつ博士になるための、いい本とか番組、知ってる方いたら教えてください。母ちゃんが台所で待ってるので。